■キーワード8「水」 +キーワード9「火」
「水」→フィッシュ 「火」→ジェイド
「シアラ……もうすぐ君の元へ逝くよ……」
炎に包まれた城の中で、私は静かに最期の時を待っていた。
雷帝アルディアスとの戦いで、傷つき、ティリスたちをこの炎から脱出させるために魔力を使い果たしてしまった。いかに炎使いの私でも、こうなってはどうしようもない。
けれど、後悔はない。昔死んだ恋人・シアラに似た娘ティリス。彼女を守れただけでも、私は本望だった。
守れなかったシアラの代わりに……というだけじゃない。
……最初は、シアラに重ねていた。姿・形・声……そして、心のあり方。全てがシアラの生き写しのように思えた。まだ名前も知らない娘を攫い、その記憶を消し、「シアラ」と呼ぶことで代わりにしようとしていた。
だが、一緒に過ごしたたった数日間で、シアラとの違いに気づいてしまった。違いに気づきながら、惹かれていたんだ。シアラではなく「ティリス」という別の娘に……。
シアラが死んでから、過去に捕らわれ屍のように生きてきた私だが、ティリスを守るために今日まで生き長らえてきたのなら、私の命も無駄ではなかった。
――これでやっと……シアラに逢える……。
そして、いよいよ迫り来る炎の熱さに、死を覚悟した瞬間――
「ジェイド様!」
私の名を呼ぶ声……と同時に、私の体を冷たい水の結界が覆った。こんなことができるのは私の知る者で一人しかいない。
「フィッシュ! お前……生きていたのか!?」
私の部下のフィッシュだった。水使いの彼ならば、この炎の中に潜り込めても不思議はない。しかし彼もまた、戦いの後で満身創痍だった。
「やめろフィッシュ! そんな傷で力を使えばお前の方が死んでしまう!」
「それはできません……ジェイド様」
「私のことはいい! もう覚悟はできている。お前が道連れになることはない!」
「できません」
「やめるんだ! フィッシュ!! これは命令だ!!」
「その命令、聞くわけにはいきません!!」
「フィッシュ……」
普段、穏やかで、私に逆らうことのない彼が、初めて声を荒げて逆らった。
「ジェイド様。貴方に救われたあの日から、私の命は貴方のもの。貴方を守るためなら、この命、喜んで捧げましょう」
「フィッシュ……」
「生きてください、ジェイド様。そして今度こそ、幸せに……」
「フィッシュ――っ!!」
悲痛な叫びは燃え盛る業火にかき消された……。
……それから、いったいどれほどの時間が経ったのだろうか。
フィッシュが息絶えたあとも、私を包む水の結界はなぜか消えることはなかった。
それは死してなお消えぬ彼の執念……想いの強さなのか……。炎が城の全てを焼き尽くすまで、私を守り続けてくれた。
そして、灰になった彼の亡骸を抱いて、私は一人立ちつくしていた。
私は……シアラの元へ逝くつもりだった。
だが、フィッシュは私に「生きろ」と言った……。「幸せになれ」と……。
もしかして、君も同じ気持ちなのかい? シアラ……。
…………。
ならば生きてみよう。
フィッシュ……お前にもらったこの命で、今度は、他の誰のためでもない、私自身のために。
シアラが死んでから止まっていた時間が、今、動き出した。
END
「口説き文句バトン」エピソード第5弾。
ドラマCD〜帰るべき場所〜からフィッシュ&ジェイド。
……って、別にBLのつもりで書いてないよ!? これしか思いつかなかったんだもん!!
彼らはサツヤちゃんが作ってくれたキャラ。
自分のキャラではないので、観月の勝手な解釈で書きました。
ちなみに、ドラマCDにはこんなシーン全然出てきません。CDでは、フィッシュはリュートと戦って死ぬことになるんですが、それはちょっと活躍がなくてもったいない気がしたので。
言わば、これは〜帰るべき場所〜原作ヴァージョン。
城を炎の海に変えたのは、雷帝アルディアス。
リュートに傷つけられて逆上して、雷で城を燃やし、脱出口を塞いでからトンズラ。
リュートの風ではどうしようもないほどの炎の中で、瀕死のジェイドが炎を操って一瞬だけ脱出口を作ってくれる。
リュートたちを逃がすだけで精一杯だったジェイドは、魔力を使い果たしてそのまま一人、炎に取り残される……。
そんな流れがあった後のシーンです。