『月のように、鳥のように』

著・観月らん


■キーワード2「月」+キーワード4「鳥」
「月」→リディア





「鳥はいいな。翼があって……」

 それはよく晴れた昼下がり。クレツェント王宮の一室で。ふと漏れた、彼女の消え入りそうなほど小さな呟きを、私は聞き逃さなかった。
 あまりにか細い声に、心配になり、一国の王女に対して失礼とは思いつつも、彼女の顔を覗き込むように伺う。

「リディア様?」
「あら、カイザー。聞こえてた?」

 何事も無かったかのように、ふんわりと笑う。
 病弱で儚げなこのお姫様は、か弱い外見とは裏腹に弱い心の内は見せない。まるで、裏側の傷を隠して輝く月のように、いつも穏やかな笑顔を絶やさずにいる。

 しかし先刻、一瞬それが崩れた気がしたのだが……。

 窓からは穏やかな光と風。先ほど窓辺にいた小鳥は、澄んだ青空へと羽ばたいていた。
 けれど……こんな天気のいい日でさえ、彼女は生まれつき病弱がゆえに外に出ることを許されない。双子の姉姫であるライラ王女はいつも飛び回っているのに。彼女はこの王宮と庭くらいしか、外の世界を知らないのだ。不満や寂しさを感じていないわけはない。

「リディア様、外に……行きたいのですか?」
「え……」

 思い切って質問を投げかけた。彼女の宝石のようなサファイアブルーの瞳が、戸惑いに揺れる。
 ――……図星、だろうか?
 不意の質問に、困ったようにうつむき黙ってしまった姫。私はそのそばで片膝をついて、意を決して言った。

「私が……姫の望むところへ連れて行ってさしあげましょうか? 私に翼はありませんが、貴女の足くらいにはなれます」

 仮にも王女の護衛騎士という立場で、それは決して口にしてはならない言葉。
 けれど、口にせずにはいられなかった。周りに心配かけまいと、本音を隠して微笑むだけの彼女を見るのは、いつも歯がゆかった。姫を守る立場だからこそ、私にくらい本当のことを話して欲しかった。
 ……御身を守るだけでなく……、

貴女の心ごと守りたい。

 だが……

「カイザー。……気にしないで。そんなことをしたら、カイザーがお父様やじいやに叱られてしまうわ」

 その返答は容易に想像できるものと同じだった。
 いつも自分のことより相手のことを気遣って、月の裏側を隠すお姫様。
 やはり私では、彼女の傷を癒すことはできないのだ……。

「でも、ありがとう。そんなふうに言ってくれて嬉しい!」

 彼女にしては珍しい、満面の笑み。不意の笑顔に、私は一瞬、眩しくて目を細めた。

 癒すことはできないけれど……ならばせめて、この笑顔だけは絶やさずに守っていこう。それが私の使命であり、私にはそれしかできないのだから。

 ……そう、心に誓った。



 END





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著者・観月のコメント

「口説き文句バトン」エピソード第2弾。

 キーワード「月」と来れば、リディアを出すしかないでしょう!

 ……というわけで、カイザー×リディアにしました。
 しかも、初のカイザー視点のお話。
 カイザーって何考えてるのか、誰を好きなのか、実は原作者も分からないんですよ。だから、カイザー視点の話なんか絶対書けないと思ってたの。
 でも、これはパロディだからと割り切ったせいか、結構すんなりと書けましたね。
 カイザー×リディア派の人が萌えてくれたら成功ですw

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