Lute side Scenario
そこにいたのは、夜の闇に溶け込む漆黒のドレスを
歳は12、13くらいだろうか。
ゆるやかに波打つ長い髪はドレスと同じく黒い。対照的に、肌は白を通り越して青白い。モノトーンの中に、瞳と唇だけが血のように紅く鮮明に色づいている。
“
まだあどけない年頃にも関わらず、そんな言葉が酷く似合う……異彩な魅力を放った美少女だった。
人の形をしていても生身の人間とは信じがたかった。
妖しい美貌のせいか、青白すぎる肌のせいか、この世のものとは思えない。彷徨い出でた幽霊か。あるいは、精巧に作られた人形か。
けれど、体は透けていない。ならば、人形だろうか。
こんなところに人形が現れるのもおかしな話だ。が、何故かそのほうが生身の人間よりリアルに感じられた。
……その考えはすぐに覆された。
妖艶な美少女
「あの……猫を見なかった?」
固い蕾が花開くように紅い唇がほころび、言葉を紡いだ。消え入りそうなほど小さな高い声で。
自分が話しかけられたのだと気づくのに、一瞬かかった。
リュート
「あの黒猫、あんたのか」
妖艶な美少女
「いいえ、ノラよ。黒い……猫なの?」
逆に問われた。確かにこの闇の中では、本当に黒かどうか判別が難しい。
リュート
「俺が見た猫はあっちの茂みへ行った」
妖艶な美少女
「ありがとう」
澄ました顔で会釈して茂みのほうへ歩いていく。そんな何でもない仕草さえ、幻想を見ている心地がした。身形や立ち居振る舞いから高貴な身分だと伺えるが、纏うオーラが明らかに普通のそれとは違っていた。
妖艶な美少女
「猫ちゃん、どこ?」
そっと草を掻き分け声を掛ける。茂みの向こうは音のない闇が広がるばかり。
この状況で黒っぽい猫を見つけるのは困難では……と思ったが
戻ってきた少女の腕の中には、黒い毛むくじゃらがすっぽり収まってゴロゴロと喉を鳴らしている。本当に野良か。
妖艶な美少女
「どうもありがとう」
リュート
「いや……」
改めて礼を言う少女は先ほどと同じ、澄ました顔。息をして喋ってはいるが表情が全く動かないので、やはり人形のようだ。
妖艶な美少女
「あなた……ティアニスお姉さまの騎士ね?」
制服をちらりと流し見た。たったそれだけで妖しい色香が漂う。
リュート
「ああ」
(お姉様?)
妹姫などいただろうか……ぼんやり思いながらうなずく。
エリーゼ
「わたくしは、エリーゼよ」
リュート
「エリーゼ……姫」
エリーゼ
「あなたは?」
リュート
「リュート=グレイ」
エリーゼ
「リュート、
リュート
(世界?)
意味がわからない。小さな声なので聞き違えたか。
エリーゼ
「またお会いしましょう。灰色の騎士様」
Continuation : in the game.