『時の呪い』

著・観月らん


■キーワード5「風」+キーワード10「時」
「風」→リュート





「どうしよう……リュートの目が見えないなんて……」

 光を失ったリュートの左眼を見つめて、あたしは呆然と呟いた。

 彼の片方だけ開かれた翡翠色の瞳には、確かにあたしの姿が映っているのに、見えていないのだ。この前戦った、時の魔導師にかけられた呪いのせいで。

「たぶん、時魔法で視力だけ老化させたんだと思うの。……ごめんね。あたしに時魔法が使えれば、元に戻してあげられるのに」

 神官が神の力を借りて使う神聖魔法の中にも、時魔法はある。けれど、あたしは時の神タインと相性が合わないらしく、時魔法は苦手分野だ。
 大きな教会にいる司教クラスの神官なら、呪いを解くことができるかもしれないけれど……おそらく、莫大な寄付金が必要だろう。冒険者の私たちでは、とても支払えそうにない。

 そんなことをアレコレ思案投げ首していたら、当事者のリュートがまるで他人事のように落ち着きを払って言う。

「気にするなティリス。俺は隻眼だから、呪いがなくてもいづれ失明する。それが少し早まっただけだ」
「そんなこと言わないで! 呪いを解く方法は、探せばきっとある! あたしが絶対見つけてみせるから、諦めないで!」

 そう言っているうちに、あたしの視界まで、熱いものがユラユラして見えなくなった。

 ――やだな。どうしてあたしってこう涙腺ゆるいんだろう。今一番大変なのはリュートなのに……。あたしが泣いている場合じゃない。

「諦めたわけじゃない。覚悟ができている……ということだ。元に戻る方法があるなら、必ず見つける。それに……」

 言葉の途中で、何かを探すようにぎこちなく、リュートの手があたしの頬に触れる。そして温かな指で、不器用に涙をぬぐってくれた。

(泣いてるって……気がついてたの?)

 見えないはずなのに全てお見通しのような瞳の彼が、優しく微笑んだ。

「このままじゃ、お前を満足に守ってやれないしな」



 END




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原作者コメント

「口説き文句バトン」エピソード第3弾。

 いきなりリュートが失明!?

 ……な、またまた衝撃の展開。『雪の花』同様、本編のネタバレになります。
 隻眼は、一つしか目がない分、普通の人より酷使するのでいづれ失明してしまう可能性が高いんだって。その話を聞いたときに、密かに思いついたエピソード。
 でもリュートって魔族だし、失明しなさそうだよなw
 ティリスが時魔法が苦手なのには、実は重大な裏設定があります。

 ……それにしても、ショートストーリーだから短くて当たり前だけど、この話本当に短いな〜。加筆してこの短さ。他の話はもうちょっと長いのに。
 よく考えれば、他の話は、キャラ設定の説明をしているからですね。リュートとティリスは本編キャラなので、説明不要だからこんなに短くすむのでしょう。


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